『ベルカ、吼えないのか?』 古川 日出男 著
壮大な犬たち(軍用犬)の歴史物語と旧ソビエト連邦の特殊部隊”S(エース)”を率いた男の物語が交錯しながら展開する重厚な作品です。
あまり知られていない軍用犬についてよく描かれています。
それと同時に第二次世界大戦後の近現代史について分かりやすく書かれているのでとっても勉強になりました。
自分にもう少し世界地理の知識があれば、更に楽しめたような気もします。
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ベルカ、吠えないのか?
著者:古川 日出男 |
あまり馴染みのない(不思議な)文体にはじめは少々戸惑ったものの久しぶりに力のある文章に出会ったような気がしました。(暴れるような文体と表現されている方もいます)
戦争の世紀とよばれた20世紀。
それは軍用犬の世紀でもありました。
太平洋の北、アリューシャン列島のキスカ島を守備していた日本軍の撤収時に島に残された4頭の軍用犬とその子孫がたどった犬の歴史。
ある犬は冷戦下、再び軍用犬としてベトナムへ、またある犬は数奇な運命をたどり中央アジア・アフガニスタンゲリラとともに戦うことに・・。
また冷戦下のソビエトにあった軍用犬による特殊部隊の局長を務めた年老いた男もその犬たちとともに混乱のロシアに”犬による革命”を描き密かに軍用犬の実戦訓練をはじめた・・・その傍には一人の日本の少女がいる。
はじめ何かの書評でちらっとみて暢気に「島に残された軍用犬と再開を果たした軍人の話(感動の再会?)」かと勝手に勘違いして読み始めてしまった自分が馬鹿でした。
これは凄いぞ!!と気がついて一気に読み切った作品です。
爆笑問題の太田光さんもこの作者のファンというのも納得です。
久しぶりに満腹、満足といったところです。
ただ人間側の主人公である老人に関しては感情移入できるかどうかについては読み手を選ぶような気がします。ここはポイントですね。
軍用犬というと爆薬を背負わされて敵の戦車の下にもぐりこみ自爆するイメージがありますが、実際の戦場でのこの手の作戦は成功率が低かったようで戦車の轟音に驚き自陣に逃げ帰ってきて自爆するといったことも多くあったようです。少なくともこの作品にはこの手の作戦行動は描写されていません。
戦争の兵器であり兵士でもある軍用犬が敵の喉を食いちぎり一撃で相手を絶命させる描写を読んでいるとただひたすら近所の犬がベルカたち軍用犬と血が繋がっていない駄犬であることを祈ります。
さすがにこの作品のスケールでは映像化は難しそうですので、ぜひ本を読んで、そしてこの文章を体験してみてください。
▼文庫版もでました!
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ベルカ、吠えないのか? (文春文庫 ふ 25-2)
著者:古川 日出男 |
文庫版にはおまけとして犬たちの系図が付いているそうです。
これはあると便利かも?
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